第十一話


「ずっと心の支えだった…」
こんな事言えば君は重いだろうか。
弱りきってる君に俺の言葉は留めにでもなるだろうか…

「不破君には感謝してる」
言葉に嘘は無い。最早迷いも無い。
彼女とまた再会する機会をくれた彼は俺にとって
無くてはならないキーパーソンだった。

「またこうして君に逢って…」
これが留めになるなら、そして彼が彼女を
この手から再び取り上げようとするのなら…

その弱りきった心に留めを打とうじゃないか。
奪われる位なら閉ざす様に仕向けてしまおう。
すまない、不破。俺はこの手を――どうしても離せそうに無い。

「俺は君に…恋をした」
「止め――」
「止めたら君は不破にその心を――」
「聞きたくない!」

掠れた金切り声を上げて彼女は耳を塞ごうとするがその手を取り阻んだ。
そうはさせない。逃がさない。逃がす訳には――いかない。

「求められた後また捨てられる事を怖がって――
母親にされた様に手を振り払われるのが怖くて閉ざす――」
「そうよ!そうですよ!――怖いですよ!何が悪いんですか!
もう一人にして下さい。何だってそんな人の傷口に塩を擦る真似をするんですか!
こんな矮小な人間なんてもう放っておけば良いじゃないですか!」
「矮小で孤独が怖いなんて、過去に振り払われた経験から動けないなんて
君だけと…思うのか…?」

今まで自分と壁の間で足掻いていた彼女の動きが止まる。
雑音だらけだった部屋が静まり返った。

「俺に勇気をくれたのは…君じゃないか…」
乞う様にゆっくりと言葉を吐くと彼女はゆっくり俺を見上げた。
その目にはしっかり光が宿っていた。

先ほどの…まるで追い詰められた囚人の様な彼女では無く
俺の好きな――力強い彼女の瞳だ。

「君の目に俺が如何見えているのかは知らないが
俺だって完全な人間じゃない。君に崇められる様な人間じゃない。
ああ、もう…なんて言って良いか分からない…」

自分の語彙の少なさに腹が立ち唇を噛んだ。
今こそ、余す所無く彼女に全てを伝えなくては成らないのに…

想いが高まりすぎたら言葉が不自由になるなんて思っても見なかった。

「Love is the first time.(こう言うの、初めてなんだ)
It doesn't become a word.(言葉にならないよ)
Do it transmit if it repeats when you are loved many times?
(何度も君を愛してると繰り返したら伝わりますか?)
Still, I am told and though it is not…
(それでも俺には伝え足り無いけど)I…(俺は…)」

彼女の瞳孔が開いているのが彼女が俺の言葉を理解した何よりの証拠だと思う。

苦しげに歪められるその表情から読み取る彼女の想いは…分からない。
ただ少し、さっきと同じく瞳孔を揺らしながらも思考を走らせ始めた様に見えた。

「私は…知らない事が多すぎました。
その敦賀さんの言葉でさえ少ししか読み取れません。
尚との時間はずっと積み立ててきたモノなので…」

彼女が何を言わんとするのか、先が読めなかった。

「夢だったんです…私の夢だったんです。
そんな事が今、如何して今…現実になるんでしょうか…」
俺は言うべき言葉を見つけられずに居た。

「料理食べて美味しいって…有難うって…
好きだって言って欲しくてずっとずっと…如何して今…」
床に大粒の雫が溜まり、水音を上げた。

「如何して今なのでしょうね…」
彼女は自嘲気味に笑った。

「敦賀さんの家でご飯を作った時とか…嬉しくて。正にあんな感じが私の夢で…
誰かが居て、自分の存在を喜んでくれて相手の存在も幸せで………」
「俺は…」
「敦賀さんとの時間、嬉しかったんです。でも私、尚でも――嬉しかったんです。
前の報われなかった時間の分…尚の時の方が嬉しかったかも知れません。」

矢張り長い時を重ねた二人には裏切りなんて些細な問題だった。
心の奥底でずっと繋がっていたんだ。

「敦賀さんが好きです。こうなって初めて気がつきました。
ずっと堪えてるつもりで全然堪えてなんか居られてなかったのに…」
俺を見てる様で視点の彷徨ってる彼女は恐らく思考に潜っているのだろう。
その姿はいつもより少し大人びて見えた。

「本当に私の人生は…ちぐはぐ。何も計画通りに行かないんだから…」
疲れ果てた感じを見受けたが何か吹っ切れた感じもあった。

「私は…馬鹿ですね。ぐちゃぐちゃで何も答えが見えません。
だから少し――保留に。勿論待ってて欲しいなんて言いません」
「俺が好きで…それでも答えが出ないと言う事は――」
「すいません、混乱してて…」

酷く憔悴した様に見えた。
落とした肩が彼女を更に儚げに見えて消えてしまいそうで怖かったから
そっとその体を抱きしめた。

「甘んじれる立場じゃないです」
そう言ってそっと抵抗する彼女を更に強く抱きしめた。
「嫌なら逃げても良いんだよ」
「嫌と思えたら楽なんですが…」

彼女はそう言って俺の背に回した手できゅっとシャツを摑み
俺の胸にぐっと頭を押し当てた。そしてするりと腕から抜け出すと
部屋の扉を開け、黙って一礼して去って行った。


【続く】



英語は雰囲気で。知識の在る人は脳内訂正をお願いします。
「あれ?こんな英文おかしくね?」ってのはおでも思う。
そんなのエキサイト翻訳に言ってください。おでは知らない!







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