第一話

※※注意※※

これは管理人とみかんさんによるディスカッションの結果により
構成された大変いい加減で良い加減な(そうですか?)パラレルワールドです。
こう言う遊びがお好きでない方はご遠慮下さいますようお願い申し上げます。

※※※※※※※


罪状「薬物乱用及び不法所持」疑惑



そもそもこの疑惑は彼女の身内からのリークであった
彼女は大手製薬会社のトップエリートでありながら

否、そうであるが故に薬品に関しての情熱を持て余したのか
次々と常人には計り知れないモノを次々生み出している…と。

そもそも製薬会社にて認められたのもその情熱であったが
行き過ぎる情熱は加速すると狂気になる。これはその良い例である。

ついには彼女の後輩などに対し、人体実験とばかりに
その妙な薬を試し始めたと見えて、彼女の周りの人間の体に
次々と異変が起こり、病院に行くもさっぱり原因がわからないという
妙な現象が多発し始めた。

その狂気じみた熱意にまわりは脅威を感じ始め、今回のリークに至った訳だった。

そんな人間なら捕まえるのは容易である…と思われたが
そこはさすがにエリートたる頭脳ゆえに中々尻尾を出さない。

この事件の資料を受け取った時から嫌な予感がしていたのだった
それに彼女は…俺と似ている。

仕事に対しての執拗な熱意、それに…トップであるが故の孤独。崇められ、祀り上げられている内に平衡感覚を失い…


俺も気をつけないとな…と苦笑した。

自身も似たような境遇であった。
世間で言う所の『立派な姿に、立派な肩書き、立派な経歴に、立派な実績』

気安く彼に声を掛ける人間なんて何処にも居なかった
皆一応に自分から距離を置き、敬意を払う。そして口を揃えて言うのだ

「敦賀捜査官 あの人には出来ない事など何も無い。付け入る隙すらない。近寄る事さえ畏れ多い。」

そう、彼女でさえも…

今回からこの捜査に加わる事になった、以前から思いを寄せ可愛がってる
部下に視線を向けると、それに気づき、深々とお辞儀をされる。

近いのに遠い、その心の距離…、、立場上強烈に迫る訳にもいかず
やんわりとその思いを示唆するが、異常に鈍感な彼女にそれが通じる訳も無くひたすら「尊敬しています」と繰り返される日々。

繰り返すごとに募る寂情と慕情。そしてもどかしさ。

もうそろそろそれらに限界を感じ始めていた。…かといって仕事に忙殺されてる自分には僅かな空き時間を利用して
彼女を食事に誘う…それが出来る最大のアクションだった。

何より彼女は大事な部下で、変にアクションなど起こすとパワハラになり彼女の職場を、、居場所を奪いかねない。

そんな事に思考を巡らせてしまう自分を戒める。
今は仕事中で…そんな事考えてる時間じゃないんだ!!切り替えよう…

端正な頬を両手でぴしゃりと叩くと深く深呼吸して
張り込みの標的に向き直る。その自分と似ている科学者はカフェで一息つきながら雑誌「ダーウィン」を読んでる最中だった。
雑誌のチョイスまで同じとは…やはり周りの反対を押し切って直接現場に乗り込んで良かった。

彼女は俺が捕まえてやらないと、、最早 他人事に思えない。
あの科学者…容疑者とは直接面識は無いが大学で噂を聞いて少しは知っていた。

学部も違う人間だが、自分と優秀さを大学の1.2を争う
君達は良いライバルで在るね、と教授達が目をキラキラして言っていたのを記憶の端の方で覚えていた

…と言うのも、自分には自分がどの位置にあるかなどみじんの興味も無かったから…。

ただ、自分の荒れ狂う好奇心のままに貪るように情報を吸収し、それらを考察、展開、検証する日々。その好奇心はまるで狂ったように
飢え、文献から、脳内、そして周りの人間…とそのベクトルを移していった。

もう自分には、周りにいる人間が研究材料…いつしかそうとしか思えなくなっていた。

そうして時間が過ぎ、俺は心理学のエキスパートと評され、警視庁きってのエリートと崇められ
今、この位置にいる。自分に向けられる羨望も僻みも最早、自分の中で統計として積み重なっていくだけの代物であった。

もう誰も傍に寄ってこない。遠くから見つめて来るだけ。
彼女もきっと…そう言う良い様の無い孤独を味わってきたのだろう。

一介の警官に捕らえられるなんて、、彼女の心は耐えられないだろう。
俺ならきっと耐えられない屈辱を感じるだろうし、、

いや、それもまた言い訳かも知れない、
現場に行けば彼女に会える。そう彼女と時間を共にする事が…。

先ほどから無線でなにやらやり取りをしながらごそごそ動く部下を見る。

このヤマは今日中に片付くだろう。裏は固めた。後は現場と証拠品を押さえればもう終わる話。

それを引き出すには彼女に近づき、親しくなり、自分に対して心を開かせて吐かせるかもしくは自分が人体実験の標的になるように仕向けそこを捕らえる

その二つの方法を行うのに適した人材。恐らくそれは俺自身。
俺がこの手で罠に嵌める。

しかし…

恐らくこれが成功してしまえば彼女のプライドを激しく傷つけるだろう。
孤独の中たった一つの支えであっただろうプライドを。

何とかして、自首させてやれないか。自分の手で幕を引かせてやれないだろうか。

思考の内に思い出すのは学生時代にすれ違う度に見た彼女の隣に並ぶ男。
日頃硬い彼女の表情も彼の傍に居る時ばかりは時は女性らしい顔をしていたと思うのだが。
何分親しかった訳では無いので本当の所は分らない。

勝手な推測で事を進めるのは危険だ。

しかしもし、俺が彼女の立場なら思いを寄せている彼女の話を出される事が一番堪えるだろうから。

目を瞑り覚悟を決め自ら頬を一閃。

迷う暇は無い。…説得を…他でもない俺になら出来る事。

彼女の心を生かしたまま話を出来るのは自分位のものだろう。
それに彼女には興味がある。少しでいい、話がしたい。自分と同じ境遇の彼女と。

視線で指示を要求する部下達に視線でもって俺に任せろ…と伝えた。
部下達はそれぞれ顔を見合わせながら渋々と言う感じで現場から身を引き署で待機するべく動き始めた。

俺はそれを見届けると隠れるのをやめて彼女の前に姿を現した。


「やぁ、君は俺を知らないのだろうけど俺は君を知ってるんだよ、元気かい?」
「私も知ってるわ。大学始まって以来の秀才、敦賀蓮…」
「君もそうだろう?…少し話をしないか?二人だけでしたい話が在るんだ」
「最近私の周りをちょろちょろしていたのは貴方の部下ね?可愛い子だわ」

先手を打たれて動揺する。顔に出さないように笑顔を貼り付けなるだけ冷静を装い俺は彼女の耳に口を近づけ囁いた。

「君に捜査の手が入ってる」
「そう……止めてくれるの?私を」
警戒で張り詰めていた彼女の瞳がふっと悲しみに揺れた。

「止められたいかい?」
「もう何も要らないもの、、、何も…」

虚ろな目で空を見上げるその仕草に心が締め付けられる。

「少し話をしよう。二人きりになれる場所は…?」
「父が経営していた工場。もう潰れたけど…。そこなら邪魔は入らない。」
「そこに行こうか」
「そうね、いいわ。行きましょう。」

二人、押し黙ったままタクシーに乗り込む話題などあるはずも無い。噂では聞いていたにしろ
面識も無く、専門分野も異なる人間であった。

それに似てると云うのは今の所俺の勝手な憶測に過ぎない。

加えて今から捕まると言う所に来て、口数が増えるタイプではないだろう。
決心をつける前に色々、考えるべき事があるのかも知れない。

今はそっとしておくべきだ。それが今の自分に出来る精一杯の思いやり。
決戦は後の工場の中で。

俺はそこで彼女の心を、、そして彼女を通して自分の心を知ろう。
恐らく全てはきっとそこから始まるのだから。


***



寂れて埃の積もる工場に足を踏み入れる。

入り口は閉鎖されていたが、彼女が小さい頃利用していたという抜け穴から何とか中に入ることが出来た

その入り口はもう何年も人が通った気配など無く、塵が沢山積もっていた。
そんな事は指して気にならなかったが、その穴が使われて無い気配が、ここに前もっての罠を仕掛けていない証拠とみて安心していた。

追い詰められた人間は大体とんでもない行動に出るのがセオリーだが先もった罠さえ仕掛けられていなかったら女性一人の力だ
何とかなるだろう。


余り警戒ばかりするのも彼女に失礼だと思った

その時点で気づけば良かったのだ。
自分が彼女にらしくも無く肩入れしてしまってる事に。

その失敗にはすぐに気がつく事になる。

工場の建物に入り「椅子があるから」と
案内された部屋に入った途端、意識が途切れた。

その遠のく意識の中で気づくのだ。
彼女は自分が思ってる以上に孤独に深く深く沈んでいた事に。

彼女は似ているけれど俺じゃない、、そんな事に。



【続く】




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