第十三話



「ちょ!先輩!ヒズリ先輩!そんな事なんて俺達がやって置きますから休暇を!早く休暇を取って下さい!」
「だぁい丈夫だってば!ちゃんと考えて動いてる。まだイケルの!お医者さんだって動いたほうが良いって言ってたんだから!!」

「でも…先輩に休暇とって貰えないと俺達がぶっ殺されちゃいますよ!」
「もしそうなったらちゃんと検挙したげるわよ!」
「犯人なんて決まってるじゃないですか!頼みます!休暇を!」

そう必死で自分に頼む後輩の顔を見ながら大きくため息をつく。


本当に…公私混同も良い所。それでなくとも影響の大きいあの人が
直接圧力をかけたら……

そう思って隣に自分に必死に食い下がる後輩の涙目を見て
もう一度深くため息をつく。

「このヤマがが片付いたらね。コレ、資料纏めといて…」
「全部やっときますってぇぇ!休暇!休暇!」
「一刻も早く犯人を検挙してあげないと…ご遺族がお辛いでしょう!」
「やっときますってば!」

「ちょっと…席外すわね…」


泣き出しそうな後輩にそう優しく言ってドアを…感情を抑えるように
ゆっくり…なるべくゆっくり閉めて…乱暴に廊下を歩き出す。

大体…あんなに仕事とプライベート分ける人だったのに…
どこでこうなってしまったのか…いつも周りに居る後輩への
彼の態度を考えると苛立って苛立ってしょうがなかった。

エリートってのは現場を離れるとこの忙しさをお忘れになるのかしら…
いえ、あの聡明な人に限ってそんな事は無い!
きっと直接言っても聞かない私への間接攻撃に違いない!

後輩を哀れに思っていう事聞くのを狙ってる!そうに違いない!
このクソ忙しい中、そんな事に後輩を使って……


あの人……絶対許さないんだからぁぁ!!


そんな心の中が漏れ出すのか廊下ですれ違った同僚も
ただ彼女を見て、呼び止めるでもなくじっと見守っていた。
見守るしか無かった…それ程に彼女は体全体で怒りを表現していたから…。

途中、出会ったレイノとか言う胡散臭い捜査官だけが
空気も読まず怒り狂った私を呼び止めた。

「おい…お前…」
「何よ!」

そうきつく睨むと私のお腹にそっと手を当て
「女だな……」
そう言って撫ぜる。

「あんたに関係ないでしょうが!」
そう怒鳴ると
「関係ない事は無い。お前が奴のモノになってしまったのだから…
その代わりとしてこの中の娘を大事に貰ってやろうと…」

「はぁ!あんた!相変わらず意味が分からな…」
「お前に似たじゃじゃ馬だと良いがな…アイツに似ずに……
若紫も悪くない…幼い頃から俺好みに……」
「何だか知らないけど…あんたみたいな変態魔界人に接触させる訳ないでしょうが!」

「変態……魔界人……」


思いのほかその言葉にショックを受けたのか
その場で立ちすくむ…その‘変態捜査官’を無視してその先を急いだ。


不意に何かが飛んできて顔に当たり足元に落ちた…
ソレはピンクの包装紙に包まれた柔らかいモノで…
大して痛くは無かったが何事かと思い…飛んできた方向を見ると
憎き幼馴染がいつもの様に偉そうな顔をしてこっちを睨んでいた。

「なによ!コレ!投げつけるなんて…失礼にも程が…」
「失礼?はん?副捜査官の嫁ともなればそんな口の聞き方をしますか…
俺様に…いい気なもんだよなぁ…」

そう笑う彼にいらっとしたが…食って掛かると後が面倒そうなので
「はいはい。いい気なモンですよ…」と受け流す。
「そういう所…似てきやがったな…あのスカシ野郎に…」
そう言って苦々しい顔をするとあっち行けとばかりに目の前で手のひらを振った。

「これ、どーすんの?」
そう言って飛んできたそのピンクの包みを目の前で振ると
「祝いだ、取っとけ!」と顔を背けながらまたしっしっ!とばかりに
手をひらひらと振った。

「こんなの…何よ?これ?どうせ良からぬモノでしょ!?」
「良からぬ…!…俺様が…この俺様が…じきじきに…ああ!もう良い!
良いからとっとけ!馬鹿!」

その余りにも不器用な態度に思わず噴出し…
「ありがとう」と素直に告げると
耳まで真っ赤になった彼は
「うっさい!早くあっち行け!しっ!しっ!」と
激しく手を振った。

肩を竦め歩きながら開けたピンクの袋には
小さな小さな真っ赤な靴と…私好みのひらひらの沢山ついた
ピンク色のベビー服が2着入っていた。

彼らしい不器用な優しさ…女だなんてどこから聞いたのかしら…
アイツの事だからきっと…私に分からない様に聞きまわったんだわ…
俺様がじきじきに…とか言ってたけど…買いに行ったのかしら…アイツが?
…らしくない…。凄く恥ずかしかったに違いない。

そう思うと彼を好きで…彼が全てだった自分を
愚かだった…なんて思えないな……酷い扱いも受けたけど
少しは想ってくれてたんだな…と今更ながら心が温かくなるのを感じた。

不意にお腹の中に蠢く感触がして思わずソコを摩ると
それを喜ぶ様にまた動く中……

貴方が産まれて来たら…きっと沢山の愛に包まれてしまうわ…
もう余分な程…そりゃもう暑苦しく……覚悟して出てきなさいよ…

そう問いかける様に心の中で想った瞬間
止まる中の動き……

嫌なのね…まぁ…しょうがない…あの父で…あの祖父で……あの祖母達…
苦労が多そうだモノね……

そう苦笑すると中の命も笑う様にまた動き始めた。
生まれたら…たまには尚にも面倒見させてやろう…きっと
「めんどくせぇ!」とか言いながら割と甲斐甲斐しく面倒見るわ…

そして子供が欲しくなって…彼に思いを寄せ…
彼もまたソレを悪く思っていないあの可愛い彼女に言うのよ。


「俺の子供を産め!」


喜ぶ彼女の顔が目に浮かぶわ…何だかんだで彼女の身を大事にする
尚のぶっきらぼうな顔も目に浮かぶ……

そんな事を考えてるとつい、幸せな気分になって
優しい気になる自分の頬を叩き 渇を入れる。

こんな事考えてる場合じゃない!私は今、怒ってるんだから!
副捜査官の公私混同に!重苦しい心配に!


そう再び自分を奮い立たせて目的地である副総監室のドアを
蹴破らん勢いでノックもせずにドアを開ける。


―――バッターーーーーーーーンッッ!!


凄い気迫で開けたのに…普通の人なら驚くのに
流石にこの人は物怖じせずに

「ノックぐらいして欲しいな…」と書類片手に涼しい顔で髪をかき上げた。
「こうされる理由はわかってるんでしょ?」
「さぁ…皆目…俺も忙しいので…」
「皆も忙しいのよ!それをわざわざ呼びつけてまで私に休暇を取らせる為に!!」

そう憤る私に悲しい顔をして
「心配なんだよ…早く家で…何かあって君と子供に何かあったら…」
「そんな判断は私がします!ちゃんとお医者さんに…」
「医師だって完璧じゃない。もし医師の判断ミスだったら…」

そう私の怒りを解くように近づきお腹を撫ぜる副捜査官に
怒りがこみ上げ……

「そんな事言ってたら…何も出来ないでしょうがぁぁぁっっ!」

その大きな怒鳴り声は隣の部屋にも聞こえていたらしく
大きなため息をつきながら自宅をコールする総監……

「あ、ハニーかい?今日の予定は?忙しいだろうが…少しでも逢えないか…?
…そう、じゃぁ楽しみにしてるよ。それでお願いもあるんだが…
ん?いや、俺の事ではなくて…そうそう、君の口からもキョーコに
産休を取る様に言ってくれないか?……ん…そうなんだけど…
今の調子では夫婦仲の危機で…うん。頼んだよ…じゃぁ今晩…」

そう話しながら机の上の家族写真をそっと撫ぜ
「愛してるよ…」
そう最愛の妻に言うも電話の先のハニーは忙しいらしく…
言葉を少し切った時点で電話を切っていた様で受話器からは只、
ツー ツーと電子音が聞こえるだけだった。

まぁ…帰ってから…伝えれば言いか…と苦笑しながら
仕事に戻る前に少し気分転換…とばかりに机の後ろにある
大きな窓から見える空を仰ぎ見た。

その日の空は一片の曇りもなく吸い込まれそうな青で…

「日本の世の中もコレぐらい平和ならなぁ…よし!仕事に戻ろう!」とまた机に向かい書類に目を通し始めた。



この世の中が…愛に包まれた…平和な世にする為に…



それが例え無駄な足掻きだとしても…人は足掻いて足掻いて…幸せを掴み取ろうとその身を伸ばすのだから…




切なる思いを抱いて…満たされない心を抱いて……




ソレこそが人生なのだから…



【END】





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【後書き From みかん】
「いやっ!私シタことないからそんなの、無理ですっ」
「どうしてそう決めつけるんだい?ほら、シテごらんよ…。」
「あっ、いやぁ…!お願い…ダ……メ…。」
「ね…いいだろう?――きっと愉しいよ。」
「っん、あぁん!!」
「あぁ、凄く素敵だよ。堪らないな…。」

って感じで、パロなんて書いたことないから無理です!
と泣いて嫌がるしろちゃんを無理やり説き伏せ、ワンシーンエロ妄想を押し付け
たのは、運命の女神のお導びきで出会ってからわずか2度目のことでした。
(運命の女神=某ドSなHINA嬢です←隠してないw)

かなり強引だったので、申し訳なかったな…とその後ちょっぴり(←)反省しつつ
wktkしながらお返事を待っていたら…。
そこには、エロを越えて広がる素晴らしい世界がありました!
無理してねだった自分、GJ〜☆なのです。(←迷惑なw

最後に、こんなあとがきまで読んでくださった皆さんと、無理なお願いを聞き入れて
くれたしろちゃんに感謝の気持ちを込めて…。
超特大級の〜「すきだぁ!がばあっ!!」←え、もう古い?(笑)


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【後書き From SHIRo】

うぅ…終わっちゃった…(寂)
みかんさん、本当にこんなに長くなるとは思わなかっただろうなぁ…
みかんさんも皆様も、こんなに長くお付き合いくださってありがとう。

元々みかんさんのエロ妄想(さらっと失礼)から産まれた
この話。折角のエロティシズムをバッサリ台無しにしてしまいましたが…
うぅ…ごめん…orz 自分は…ヒューマンドラマ重視で書くのが癖で…

自分一人では決して産まれなかったであろうパラレル…
みかんさんの刺激のお陰でこんなに楽しく書かせて頂けました。
本当にありがとう。大好きだー!(がばあっ!!)←まだ使えるはず!


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