第十一話



忍ばせる足音、キョロキョロと見渡すその仕草。
事務所に帰ってからの私は傍から見ればさぞかし滑稽だった事だろう。

部室に入って一息、閉じた扉を背に大きく深呼吸をすると
室内に置かれた机で肘を付き、両手を組み、眉間に皺を激しく刻みこちらを威嚇する、愛する友人…

「もうやだッ!尚はあーだし、敦賀さんもあーだし!モー子さんまでそんなの!仏滅だわ、この世の終わりだわ、もう今日が終わったら私は生きて無いわッ!」

緩んだ涙腺はなかなか閉まらない。
それでなくとも腫れた顔がひりひりと痛むのも構ってられず
私は床に伏し、床を叩き再び号泣した。

「泣きなさい!もう泣き疲れて枯れておしまい!」
「酷い!酷いわ!」
「親友親友と連呼しておいて肝心な事は話さない!
引っ付いて来る癖に何か在る度誤魔化す!あんた、馬鹿じゃないの!」

彼女はさっきの電話の剣幕などまだ序章よ、と言った感じに私を叱咤した。

「大体アンタはねぇ、無駄な事は相談してくる癖に大事な事はいつだって隠す!」
「だってまだ何も起きてな…」

「(#゚Д゚)< 五月蝿い!」
「( ̄□ ̄;)< ええ!?」

モー子さんが急に般若の様な顔から真顔になったから
私も釣られて真顔になってゆっくりと机向かいに座った。

「…あのね?キョーコ…そもそもパーティーに行くの嫌だったんでしょう?」
「…うん」
「…誰だって理由もなく嫌がる事はしないでしょう?」
「…うん」

諭す様に彼女は言葉を紡いだ。

「メルヘン思考のアンタが催し自体を嫌がってるとは考え辛い。
アンタが言ってた通り気後れする程の豪華な会だもの、気後れしても行きたいでしょう?本来なら喜ぶ筈じゃない…」
「…うん」
「会が嫌で無いのなら、嫌な理由は他に在る」
「……」

「会には何が在る?食べ物が在って…ダイエットしてるのに
…ではあんなに落ち込まないし」
「ダイエット…した方が良いのかなぁ…」
「今はそんな話をしてない!」
「話を振ったのはモー子さんの…」

「(#゚Д゚)< 五月蝿い!」
「( ̄□ ̄;)< なんで!?」

彼女は大きく溜息を付き、私はうなだれた。

「…キョーコ…顔を上げて見なさいよ」
「…うん?」
「ひっどい顔…」
「うう…」

モー子さんはきっと私を苛めて楽しんでいる…
不思議とそうは思わなかった。
ただ彼女が心底心配してくれている様子が嬉しくて溜まらなくて、
彼女の剣幕に驚いたのも手伝って…

なんか…笑えてきた。

「何笑ってんのよ」
「…っははは…だって!」

相変わらず笑う私を無視して彼女は話を続けた。

「良い?キョー子、会に理由が無くて、会場にも無い…だったら人しか残ってない」

彼女は私を問い詰める様に睨んだ。まるで取調べだ。
気の所為か二人の間にはデスクライトが蜃気楼の様に見えた…気がしたけど黙ってる事にする。何かまた怒られる。絶対。

「レイノとか言う変なのじゃなくて、不破君でも無い。これは本人に確かめたから…で、その二人じゃなくて、演技の事でも無いなら…」
「聞きたくない!」

彼女は立ち上がり、耳を塞ぐ私の両手を耳から話しながら怒鳴った。

「あの人しか無いじゃない!馬鹿でもわかるわよ!」
「あの人って…」
「敦賀さんよ、そんな事を大声で怒鳴られたいの!?」
「嫌です…」

「さ、これから順にそれを話しなさい。一緒に考えてあげるから…」
「モー子さん?」
「はい?」


――カツ丼…頼んでね。




【続く】








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