朝の混じり毛の無い光が真っ白なカーテンを透かす。 鳥の鳴き声に起こされ暫くまどろんで居たけどその見覚えの無い風景が気になり酷く大きく柔らかなベッドから身を起こす覚悟をした。 気温は暑くも無く寒くも無い人肌、とでも言うのだろうか、ぬるま湯に浸かる様なその感じが酷く心地が良かった。 唯一部屋にある重厚そうな扉を開けると廊下が続きその先で何か物音がした気がしてそっとそこへ引き寄せられる様に歩き、その扉を開けると先程と同じ様に朝日に照らされたカーテンの所為で少し逆光になって顔の見えない誰かが台所らしき所に立っていた。 「よく寝てたから何か作ろうと思ったんだけど…」 テーブルには雑多に材料が並んでいたがその一貫性の無いチョイスに何故か私は笑ってしまい、その相手に近づき顔を覗いた。 「お腹が減ったなら起してくれたら良いのに…」 私は何故か別段その相手に驚きもせずそう話しかけた。 「ゆっくり寝てれば良いよ、疲れてるんだから。珠には俺の手料理も…」 「だったらその言葉に甘えて私はそのお手伝いをしますね」 彼は微笑み、私もまた微笑んだ。 「じゃぁ取りあえず何を作ろうかな…」 「自分のお好きなものを作れば良いじゃないですか」 「俺は…君の手料理なら何でも好きだから…」 「そんなの…!」――それれは私にしか作れない話じゃないですかと笑うと 彼は顔を赤らめて「せめて手伝うよ」と彼は笑い、二人で台所に立った。 そんな夢を見た。絶望の目覚めだった。 かつて馬鹿だった私の思っていた幸せは今も相変わらずである事を嫌でも知った。 愛し合いされて幸せになる何て御伽噺世界にしか無い物だと知った筈なのに私は… ふと枕元の携帯を見ると不在着信。 ああ、そうかだから相手はあの顔だったのかと少し納得が行ってほっとした。 早めに寝た私はきっと耳元でなる彼の着信(天国と地獄)を示す音が鳴り続けたせいで 薄い眠りになりその時に「敦賀さん」と言う情報を得たから夢に出た、と言うそれだけ。 料理をする夢を見たのは私がお腹が空いているせい。 気持ちの整理の方向性が決まり少しすっきりしたから折り返し彼と連絡を取る事にした。 寝ていてはいけないと思ったのでメールにて失礼します、と題名を付け後ほど、昼にでも電話をしますと書いて送ると すぐに電話がコールされた。 「すいません、起してしまいましたか?」 「朝一で君の声が聞けるなら目も覚ますよ」 「敦賀さんは本当にそろそろ言葉を選んだ方が良いと思います。誰にでもこんな調子で話をしてると誤解されて本当に大切な人に届きませんよ?」と後輩にしては過ぎた事を言うと彼は少し黙った。 「敦賀さんには辛い思いをして頂きたくないんです」と心配している旨を伝えると「俺がそんなに誤解をさせていると言うなら君だって変わらない」と彼は不服そうに言い返した。 「私はどう話そうと魅力薄ですから」 「俺だって…」 「自覚が足りません」 「自覚が足りません」 「私は自覚じゃなくて魅力が足りないんです!」 私は朝っぱらから少しばかり語気を強めたが彼は特に堪えた様子も無く、ただ「誰にでも何て言ってないのに…」と一言呟いた。 「敦賀さんにはその気は無くても敦賀さんの口から発せられるそんな言葉は誰でも誤解したいと思うから余計に誤解してしまうんです!」 「誤解って…?」 「私が敦賀さんにとって特別な存在なんじゃないかな?と思う訳です。その点私は敦賀さんのそう言うお優しいと言うか、そう言う言い回しの癖のある方だと知っているから大丈夫ですが他の人はイチコロですよ!」 そう力説すると彼はため息を付いた。 「取りあえず…その件に関して詳しく聞きたいから今晩開いてるかな?疲れてるなら自信は無いけど俺が何か作るから…」 そんな彼の台詞にふと先ほどの夢を思い出し、心が跳ねてしまった。 「いえいえいえ、作ります!後輩の!後輩の仕事ですそれは!」 「でも俺は別に君にそう言う…」 「いえいえいえ、いつもお世話になってますから!大切な大切な先輩ですから作りたいんですッ!作らせてください!何が良いですか!?」 彼はまたため息一つ付き 「君の手料理なら何でも…」と力無く言った。 「私、敦賀さんに沢山話したい事があります」 「奇遇だね」 「お願いしたい事も沢山あります」 「奇遇だね」 「では仕事が終わり次第電話させて頂きます」 「待ってるよ」 電話を切った後も跳ね続ける心臓に「馬鹿じゃないの?」と声を掛け 今夜に話すべき事を頭で並べ立てた。 「まず最初は何て言って切り出そう…最初は敦賀さんの言葉の威力≠ゥら話すべきよね!そしてこのプレゼンの結論は何処かしら…」 結局私は敦賀さんに如何して欲しいかと言うと幸せになって頂きたいし、他の女優様と揉めて欲しくない。 それに今の所私は分かっている≠ゥら対策を打てているけどきっと繰り返しあんな言葉を掛けられているといつの日か大変な事になって敦賀さんとの今の清く正しい師弟関係が潰れてしまいかねない。 大切な先輩だから幸せになって欲しいと念を押そう。 大切な先輩を失いたくないです、と言おう。その為にもって行く結論はそうね…――夢を見せないで下さい。何て如何だろう…とか何とか考えながら私は学校の支度をして家を出た。 【終わり】 *** 「夢を見せないで下さい!」 「見てるの?本当に…」 「今朝だってもう凄く…」 「奇遇だね」 「そもそも夢の中と現実でシンクロするなんて卑怯ですよ!」 「え?シンクロしてくれるの?」 「…え?」 「…え?」 【速報】敦賀氏はアップを始めました (どんな夢を…)